犯罪

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犯罪(はんざい、英語:Crime)とは、一般には、によって禁じられ刑罰が科される根拠となる事実・行為をいうが、それぞれの学問分野においては、より実質的な定義がなされることもある。犯罪について帰責され裁判の結果として刑罰の対象となった者は、犯罪者犯人、英語:Criminals)と呼ばれる。起訴前は被疑者(容疑者)であり、起訴された後は、当該事件との関係において被告人と呼ばれる[1]

犯罪の分類[編集]

犯罪に関する学問[編集]

罪刑法定主義が前提とされている社会においては、何が犯罪とされているかは刑法などの法典に明示されており、何らかの非行逸脱行為反社会的行為の類がただちに刑法上の犯罪とされることはない。法典の文言は一般の国民にとって難解で、しばしばその限界が問題になるため、法解釈学の一つとして刑法学が発展してきた。

また、事実としての犯罪の現象と原因、予防方法を研究する学問の分野を広義の犯罪学という。うち、犯罪の現象と原因を研究する学問の分野を狭義の犯罪学という。詳細は犯罪学を参照。

犯罪者に対する取り扱いや政策の問題を取り扱った学問の分野を刑事政策という。刑事学と呼ばれることもあるが、刑事学という用語はより広範な意味で用いられることもある(刑事学を参照。)。

刑法学、犯罪学、刑事政策それぞれの学問分野の関係や体系的な位置、役割分担については、それぞれの研究者によって違いがある。

刑法上の犯罪[編集]

定義[編集]

日本の刑法
刑事法
刑法
刑法学  · 犯罪  · 刑罰
罪刑法定主義
犯罪論
構成要件  · 実行行為  · 不作為犯
間接正犯  · 未遂  · 既遂  · 中止犯
不能犯  · 相当因果関係
違法性  · 違法性阻却事由
正当行為  · 正当防衛  · 緊急避難
責任  · 責任主義
責任能力  · 心神喪失  · 心神耗弱
故意  · 故意犯  · 錯誤
過失  · 過失犯
期待可能性
誤想防衛  · 過剰防衛
共犯  · 正犯  · 共同正犯
共謀共同正犯  · 教唆犯  · 幇助犯
罪数
観念的競合  · 牽連犯  · 併合罪
刑罰論
死刑  · 懲役  · 禁錮
罰金  · 拘留  · 科料  · 没収
法定刑  · 処断刑  · 宣告刑
自首  · 酌量減軽  · 執行猶予
刑事訴訟法  · 刑事政策

日本を含む多くの国では、罪刑法定主義が原則とされており、刑法など法典に規定がない行為については犯罪とされない。

刑法学においての犯罪は、ドイツの刑法理論を継受する国(日本など)においては、構成要件に該当する違法かつ有責な行為と定義される(行為かどうかは構成要件の問題とする見解が多いので、その意味ではこの表現はあまり正確でないとも言える)。構成要件違法性責任のそれぞれについて、理論的な対立がある。各項目を参照のこと。

刑法上の犯罪かどうかは、日本の通説によると以下のような枠組みで判断される。

構成要件該当性[編集]

第一に問責対象となる事実について構成要件該当性(充足性とも)が必要である。構成要件とは、刑法各論特別刑法に規定された行為類型である。端的に言えば、犯罪のパターンとして規定されている内容に行為が合致するかどうか、が構成要件該当性の問題である。

行為でないものはおよそ犯罪たり得ないのであり、行為性は犯罪であるための第一の要件であるとも言える。行為性を構成要件該当性の前提となる要件として把握する見解もある。行為の意味についてはさまざまな見解が対立している(行為論)。行為でないものとしてコンセンサスのある例としては、人の身分(魔女など)や心理状態(一定の思想など)などがある(歴史的にはこれらが犯罪とされてきたことがある。)。犯罪が行為でなければならないということは、これらのものはおよそ犯罪たり得ないことを意味する。なお、行為とは作為だけでなく不作為を含む概念である。

また、主体は自然人でなければならないとされる。法人は犯罪の主体とならないとするのが通説である。また、ヒト以外の生物も犯罪の主体たりえない(歴史的にはなり得るとする法制もあった)。

問責対象となる事実(行為態様、因果経過、結果、行為時の状況、心理状態など)が構成要件に該当するものでなくてはならない。各構成要件はそれぞれ固有の行為、結果、因果関係、行為主体、状況、心理状態などのメルクマール(構成要件要素)を備えており、問責対象となる事実がこれらの全てに該当して初めて構成要件該当性が肯定されるのである。なお、構成要件には基本的構成要件(直接の処罰規定があるもの)と修正された構成要件未遂犯共犯など)があるとされる。

違法性[編集]

第二に違法性の判断が行われる。通説によれば、構成要件は違法・有責な行為の類型ということになるから、構成要件該当性が認められたこの段階では、違法性阻却事由のみが問題となる。たとえ、構成要件に該当するとしても、違法でない行為は有害でなく、禁止されず、したがって犯罪を構成しないのである。いうなれば、構成要件という犯罪のパターンに該当する場合であっても、悪くない(違法とされない)場合には、犯罪を構成しない、ということを意味する。

違法性の本質は、倫理規範への違背であるとされたり(規範違反説)、法益侵害・危殆化とされたりする(法益侵害説)。両者を折衷する見解が多数であるが、法益侵害のみを本質とする見解も有力である。この対立は、違法性の判断の基準時(行為時判断か事後的判断か)の問題と絡んで、学説は深刻に対立している(いわゆる行為無価値論結果無価値論の対立である。通常は、規範違反説=行為時判断=行為無価値論、法益侵害説=事後的判断=結果無価値論として理解されている。)。違法性阻却事由には、例えば「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない」(刑法36条)とする正当防衛の規定がある。なお、明文のない違法性阻却事由も認められる(超法規的違法性阻却事由)。

責任[編集]

第三に責任の判断が行われる。たとえ、構成要件に該当し違法な行為であっても、それが自由(行為者の自発的)な意思による場合に初めて非難が可能となるのであり、したがって他の行為を採ることを規範的に期待しえない場合には非難が出来ず、これを治療や教育の対象とすることは別段、処罰の対象とすることは相当でないからとされる(道義的責任論)。この部分は前2段の判定により、犯罪のパターンに該当し違法な行為であると認められた場合に、その責任を当該犯人に問うことが妥当かどうか、という点を問題とするものである。

例えば、違法性阻却事由該当事実を誤想した場合には故意責任は問えないとされる(厳格責任説を除く)。また、行為者が刑事未成年者であったり重度の精神障害を患ったりしている場合には、その者の行為は処罰の対象とならない。明文のない責任要素ないし責任阻却事由も認められる。

その他[編集]

客観的処罰条件一身的処罰阻却事由といった処罰条件という概念があるが、これらは犯罪の成立を前提に処罰が可能かどうかという問題に過ぎないとされる。もっとも、これらを構成要件要素に組み込む見解も有力である。

なお、親告罪における告訴などは訴訟条件であって、刑事実体法の問題としては扱われていない。

刑法の定める犯罪リスト[編集]

日本の刑法及び特別刑法諸法に定められた犯罪には次のようなものがある。

個人的法益に対する罪[編集]

(財産犯については、個別財産に対する罪と全体財産に対する罪,領得罪毀棄罪とに分類するのが通常である。)

社会的法益に対する罪[編集]

国家的法益に対する罪[編集]

犯罪とマスメディア[編集]

刑法の存在や判決による刑事学上認められている影響(一般予防、特別予防)についてはマスメディアの存在を前提としないものであり、また、判決や犯罪統計なども公的な機関により公開されているが、一般にマスメディアが発達した社会においては、市民は犯罪報道によって犯罪を知り、刑事裁判の判決報道によって刑罰が科されることを知り、刑罰の一般予防効果がより十全に発揮される(一般予防とは、当該犯人以外の一般に対しての予防効果を言う。これに対して、当該犯人に対する効果については特別予防と呼ぶ)。また、マスメディアは違法性のある事例や、違法となるそれのある反社会的行為を先行して取り上げることによって、警察が捜査に乗り出したり犯罪としての立法化がおきることもある。この様に犯罪におけるマスメディアの果たす役割は大きい。

しかし、誤った報道が冤罪を生み出したり、統計を無視して犯罪が増加していると報道することが厳罰化など刑事政策を誤った方向に導いたり、犯罪報道が類似の犯罪を誘発したりする危険性もある。また警察などの捜査機関による捜査の段階において有罪を前提とした報道がなされることは長らく問題とされてきており、現在においてもこの問題は解決されたとは言えない。いわゆる推定無罪の原則とマスメディアにおる報道の兼ね合いには注意を要する。

関連項目[編集]

Wikipedia-logo.svg このページはウィキペディア日本語版のコンテンツ・犯罪を利用して作成されています。変更履歴はこちらです。
  1. 「推定無罪の原則」