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'''ピペド'''とは、[[農学部]]、[[理学部]][[生物学科]]、[[生命科学部]]出身者の多くがつく[[職業]]。そして、[[大学院]]などの研究機関において、低待遇もしくは無給で研究に勤しんでいる[[生物学|生物学系]]の[[研究者]]([[大学院生]]や[[ポストドクター]]など)を揶揄した言葉である。[[2ちゃんねる]]の[[生物板]]発祥で、インターネットでは多く見かけられる用語だが、マスコミなどでこの言葉が使われることはない。
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また、[[日本生化学会]]の会報の中でもこの用語は取り上げられた。<ref>(社) 日本生化学会機関誌「生化学」80巻、第8号778ページ、において「労働集約的な生物系の一面を揶揄したものと思われるが、「ピペド(ピペット奴隷などの略)」という酷い表現もネット上ではそれなりに普及している。」と博士課程の定員割れ問題の中で取り上げられている。</ref>
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「ピペド」は、「'''ピペット土方'''(どかた)」もしくは「'''ピペット奴隷'''」という言葉の略称が由来であり、これらの言葉も同程度の頻度で使われている。[[ピペット]]は液体を計量するための実験器具の総称であるが、ここではマイクロピペットと呼ばれる生物学実験で多用される実験器具を指していると考えられる。
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なお、[[土方]]という呼称には差別的なニュアンスが含まれる可能性があるため、本稿ではこれらの言葉は使わず、「ピペド」を正式な用語として採用し解説することにする。
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「ピペド」とは、「主に[[ミクロ生物学]]の分野において、不安定な身分(ポスドクなどの任期職もしくは大学院生)で研究に従事している者」である。
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「ピペド」という言葉は、生物学全般に対して使われるのではなく、語の由来にもなっているマイクロピペットを用いて実験を行う事の多い、[[分子生物学]]や[[生化学]]を中心としたミクロ生物学に限定される事が普通である。マイクロピペットはミクロ生物学の分野に限らず、マクロ生物学や化学・物理の世界でも用いられる事はあるが、通常はこれらの分野に対しては「ピペド」という言葉は用いない。
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この分野に限定される理由は以下のような事である。
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他の物理、数学、工学、マクロ化学といった分野で大学院まで進学すれば必然的に数学、統計学、プログラミング、ネットワーク、論理的思考などのスキルは身に着けざるを得ず(努力と学歴に見合うかはともかく)一定の市場価値は認められる。
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一方、分子生物学、生化学といった分野は、教育する側の質が他の分野と比較し劣悪であるため、研究対象が神秘的である、あるいは、研究は博物学に過ぎないという稚拙な価値観しか持てない学生やポスドクのような研究者が多く量産されたことに由来する。
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教育課程の問題点として、現在、日本の大学の教授の多くは競争的環境下に置かれることなく現在のポジションを取得し、また、分子生物学や生化学は思考力を必要とする数学的な解析を必要としないことから無能な教授が、その師と馬が合うという理由により昇進したものが大半であることが原因である。
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大抵の生物系の講義は『細胞の分子生物学』(通称:セル)、『Essential細胞生物学』(通称:エッセンシャル)といったバイブル的教科書を使って1~2年かけて講義がなされる。これらの教科書には数式・化学式はほとんどなく、学生は教科書に書いている各因子の種類やその関係性を言葉で暗記することに力を注がざるを得ない<ref>例外として、生物物理学、バイオインフォマティクス、システム生物学、生体高分子化学など</ref>。一方研究室ではセミナー形式で担当する学生が自分の研究と関連する原著論文を発表するということが多い。しかし、論文は実験結果の写真やグラフを図表にし、厳密とは言い切れない数値の差から結論を出したものが多いため(厳密には統計学での検定が必要)、ここでも学生は数理的な思考力が身に付かない。
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また、研究室での研究テーマにも問題がある。生物の研究は莫大な費用が必要であり(その大半が生物学者が作れない試薬や機材に費やされる)、研究費は研究室の教員が[[科研費]]等から競争的に取得したものである。そのため、研究室として行うべき研究の方向性は具体的に決まっており、教員があらかじめ数年の期間で研究のロードマップを決めていることが多い。つまり、大学院生・ポスドクは自由に研究テーマを決めることができず、教員によって与えられたテーマをこなすことになる。実験の手法についても教員が指導するため、学生は内容が理解できていなくとも言われたままに手を動かしていればそれなりの結果が出てしまうことになる(このため生物の研究が料理に例えられることが多い。料理を作るときになぜそのタイミングで煮たり、調味料を入れたりするのかなどを考えないのと同じである。)。
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本来、研究とはテーマを考えることから始まり、目的を決め、それに至る研究手法を練り、得られた結果をどのように考察するか、その次にどうすればよいか、などを試行錯誤しながら進んでいくことで研究者としての資質や論理的思考力を身に付けるものである。しかし、このようなピペド作業は単なる肉体労働の奉仕作業にすぎず、学費と時間を費やした見返りがほとんど得られないという状況に陥る。
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ちなみに、[[医師免許]]を有する者がポスドクもしくは大学院生の身分で、こういった分野の研究に従事している事も多いが、そういった者をピペドとは言わない。あくまで「不安定な身分(学生、院生、任期制職)で」というのが条件である。従って、非任期職についている者(もしくは非任期職に就職する事が決まっている者)についてもピペドという言葉は使わない。
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最近では、ポスドク問題(あるいは余剰博士問題)や[[学歴難民]]といった言葉が、テレビや新聞などの各種メディアでも取り上げられる事が多くなり、博士の就職難は一般市民にも認知されるようになってきている。しかし現状ではまだまだ、全分野の博士・ポスドクをひとまとめに捉える段階から脱しきれておらず、特定の研究分野が抱える固有の問題点が見落とされがちである。「ピペド」という言葉により、特に余剰博士問題の深刻な生物学系の分野に焦点を当てて問題提起を行える事が期待されるという点で一定の意義があると考えられる。
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== 関連項目 ==
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* [[バイオ産業]]
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* [[侮蔑]]
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* [[差別用語]]
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* [[土方]]
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* [[デジタル土方]]
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* [[専攻ロンダリング]]
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* [[生物板]]
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== 脚注 ==
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<div class="references-small"><references/></div>
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{{DEFAULTSORT:ひへと}}
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[[Category:分子生物学]]
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[[Category:学者]]
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[[Category:日本のインターネットスラング]]
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[[en:Pipedo]]

2010年11月8日 (月) 10:08時点における版

ピペドとは、農学部理学部生物学科生命科学部出身者の多くがつく職業。そして、大学院などの研究機関において、低待遇もしくは無給で研究に勤しんでいる生物学系研究者大学院生ポストドクターなど)を揶揄した言葉である。2ちゃんねる生物板発祥で、インターネットでは多く見かけられる用語だが、マスコミなどでこの言葉が使われることはない。

また、日本生化学会の会報の中でもこの用語は取り上げられた。[1]

由来

「ピペド」は、「ピペット土方(どかた)」もしくは「ピペット奴隷」という言葉の略称が由来であり、これらの言葉も同程度の頻度で使われている。ピペットは液体を計量するための実験器具の総称であるが、ここではマイクロピペットと呼ばれる生物学実験で多用される実験器具を指していると考えられる。

なお、土方という呼称には差別的なニュアンスが含まれる可能性があるため、本稿ではこれらの言葉は使わず、「ピペド」を正式な用語として採用し解説することにする。

定義と問題点

「ピペド」とは、「主にミクロ生物学の分野において、不安定な身分(ポスドクなどの任期職もしくは大学院生)で研究に従事している者」である。

「ピペド」という言葉は、生物学全般に対して使われるのではなく、語の由来にもなっているマイクロピペットを用いて実験を行う事の多い、分子生物学生化学を中心としたミクロ生物学に限定される事が普通である。マイクロピペットはミクロ生物学の分野に限らず、マクロ生物学や化学・物理の世界でも用いられる事はあるが、通常はこれらの分野に対しては「ピペド」という言葉は用いない。

この分野に限定される理由は以下のような事である。

他の物理、数学、工学、マクロ化学といった分野で大学院まで進学すれば必然的に数学、統計学、プログラミング、ネットワーク、論理的思考などのスキルは身に着けざるを得ず(努力と学歴に見合うかはともかく)一定の市場価値は認められる。

一方、分子生物学、生化学といった分野は、教育する側の質が他の分野と比較し劣悪であるため、研究対象が神秘的である、あるいは、研究は博物学に過ぎないという稚拙な価値観しか持てない学生やポスドクのような研究者が多く量産されたことに由来する。

教育課程の問題点として、現在、日本の大学の教授の多くは競争的環境下に置かれることなく現在のポジションを取得し、また、分子生物学や生化学は思考力を必要とする数学的な解析を必要としないことから無能な教授が、その師と馬が合うという理由により昇進したものが大半であることが原因である。

大抵の生物系の講義は『細胞の分子生物学』(通称:セル)、『Essential細胞生物学』(通称:エッセンシャル)といったバイブル的教科書を使って1~2年かけて講義がなされる。これらの教科書には数式・化学式はほとんどなく、学生は教科書に書いている各因子の種類やその関係性を言葉で暗記することに力を注がざるを得ない[2]。一方研究室ではセミナー形式で担当する学生が自分の研究と関連する原著論文を発表するということが多い。しかし、論文は実験結果の写真やグラフを図表にし、厳密とは言い切れない数値の差から結論を出したものが多いため(厳密には統計学での検定が必要)、ここでも学生は数理的な思考力が身に付かない。

また、研究室での研究テーマにも問題がある。生物の研究は莫大な費用が必要であり(その大半が生物学者が作れない試薬や機材に費やされる)、研究費は研究室の教員が科研費等から競争的に取得したものである。そのため、研究室として行うべき研究の方向性は具体的に決まっており、教員があらかじめ数年の期間で研究のロードマップを決めていることが多い。つまり、大学院生・ポスドクは自由に研究テーマを決めることができず、教員によって与えられたテーマをこなすことになる。実験の手法についても教員が指導するため、学生は内容が理解できていなくとも言われたままに手を動かしていればそれなりの結果が出てしまうことになる(このため生物の研究が料理に例えられることが多い。料理を作るときになぜそのタイミングで煮たり、調味料を入れたりするのかなどを考えないのと同じである。)。

本来、研究とはテーマを考えることから始まり、目的を決め、それに至る研究手法を練り、得られた結果をどのように考察するか、その次にどうすればよいか、などを試行錯誤しながら進んでいくことで研究者としての資質や論理的思考力を身に付けるものである。しかし、このようなピペド作業は単なる肉体労働の奉仕作業にすぎず、学費と時間を費やした見返りがほとんど得られないという状況に陥る。

ちなみに、医師免許を有する者がポスドクもしくは大学院生の身分で、こういった分野の研究に従事している事も多いが、そういった者をピペドとは言わない。あくまで「不安定な身分(学生、院生、任期制職)で」というのが条件である。従って、非任期職についている者(もしくは非任期職に就職する事が決まっている者)についてもピペドという言葉は使わない。

意義

最近では、ポスドク問題(あるいは余剰博士問題)や学歴難民といった言葉が、テレビや新聞などの各種メディアでも取り上げられる事が多くなり、博士の就職難は一般市民にも認知されるようになってきている。しかし現状ではまだまだ、全分野の博士・ポスドクをひとまとめに捉える段階から脱しきれておらず、特定の研究分野が抱える固有の問題点が見落とされがちである。「ピペド」という言葉により、特に余剰博士問題の深刻な生物学系の分野に焦点を当てて問題提起を行える事が期待されるという点で一定の意義があると考えられる。

関連項目

脚注

  1. (社) 日本生化学会機関誌「生化学」80巻、第8号778ページ、において「労働集約的な生物系の一面を揶揄したものと思われるが、「ピペド(ピペット奴隷などの略)」という酷い表現もネット上ではそれなりに普及している。」と博士課程の定員割れ問題の中で取り上げられている。
  2. 例外として、生物物理学、バイオインフォマティクス、システム生物学、生体高分子化学など